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第5話 お披露目の夜会

Auteur: 波 七海
last update Date de publication: 2025-11-23 16:25:09

「最近、ほんっと、神星樹の王城ヴァンドスラシルに来ることが多いのよねー」

 自宅にてヴァルシュから妖精王の戴冠式と結婚の儀の件を聞いた翌々日。

 バムロールとシャーロットの結婚の儀を大々的に知らしめるために、大広間で夜会が開催されていた。

 この部屋では色々とあったものだと感慨深げにシャーロットは思い出していた。

「ヴァルとの再会……護るって言われたのはドキドキしたよね。それで終いにはバムロール……様との結婚の発表かー」

 本日の主賓はもちろん、バムロールとシャーロットの2人である。

 そして今回の主催者は現妖精王のリンレイスではなく、次期妖精王のバムロール。明日の結婚の儀に向けてのパフォーマンスまで考えている辺り、根っからの政治屋だと言うことだろう。

 夜会が始まって早々、2人の元には多くの来賓貴族たちがこぞって詰めかけた。

 正直、シャーロットには誰が誰だかさっぱりで、途中から脳が覚えることを拒否していたほど。

 改めて脳の容量はもっと有意義に使うべきだと実感させられる。

 挨拶が終わってようやく解放されたシャーロットは、行き場のない憤懣ふんまんや葛藤、そして自らの想いから逃避するために、苦手な酒を呷っていた。

 過去の経験から学んでいないと言われようと、呑まずにはいられない。

 依然としてバムロールは貴族たちと歓談しているようだが、よくできるものだと感心する。

 シャーロットの方にも声を掛けてくる者はいたが、明らかな不機嫌モードを隠そうともしない彼女に近づく者はいなくなっていた。

 現在、隣にいるのは、彼女の心身を案じるヴァルシュただ1人である。

「おいおいシャル……ちょっと呑みすぎじゃねぇか? そろそろ止めとけって」

「あによー! 呑んじゃ駄目だって言うの!? ヴァルもあたしの意思を無視するってーの!?」

 ヤケクソ気味に怒鳴りつけるシャーロットの情緒は乱れに乱れていた。

 最大の庇護者を失い、外堀を埋められていく様子を黙って見ているしかないシャーロットに押し寄せるのは、不安感と無力感、そして絶望感であった。

「いやな……」

「うう……」

 自分が情けなさ過ぎて思わず泣き出してしまったシャーロットに、ヴァルシュは悔しそうに唇を噛んでひたすら宥めている。幼馴染であり、護ると誓った相手を苦しみから救ってやれないばかりか、気の利いた言葉の1つさえ出てこない不甲斐ない自分に憤りを隠せていない様子だ。

 シャーロットの最大の味方であるリンレイスは夜会には呼ばれてすらいない。

 バムロールからすれば、既に自分は妖精王であり、誰にも気兼ねする必要がないことをアピールする恰好の場となっている訳だ。

 この大広間にいる唯一の味方はヴァルシュのみ。

 シャーロットは大海にゆらゆらと揺らめくだけで、地に足を付くこともできぬ海月くらげのようなもの。濁流の中に落ちた小さな葉っぱであり、ただただ流され飲み込まれることしかできない小さき存在。

「ヴァルの嘘つき! あたしを護るって言ったじゃん!」

 泣きながら怒るシャーロットだが内心では理解している。

 ヴァルシュに怒りをぶつけても何の意味もないと言うことを。

 むしろ彼を傷つけるだけだと言うことを。

 それでも心とは裏腹に、口から溢れ出る想いをせき止めることができないのだ。

 沈黙して項垂れるしかないヴァルシュを見て、シャーロットは心の中で謝り続けることしかできずにいた。

「シャル……こんな政略結婚なんて嫌だよな。嫌に決まってるよな……」

 ようやく口を開くヴァルシュだが、いて出る言葉からは無念さしか伝わってこない。

「あいつが妖精族を率いて参戦したって戦力にはならねぇ……王の器じゃねぇよ。いや、何を言っているんだ俺は……そんな話じゃねぇのにッ……」

 沈黙を守るシャーロットを前にしてヴァルシュの独り言は終わる気配はない。

 苛立ちの混じる声が彼の口から漏れ出てくる。

「ガルガンドルム様に何とかしてもらうしか……駄目だ……多種族への干渉はご法度はっと。くそッ……自分の力じゃなにもできねぇのかッ!」

 それが余計に彼を苛立たせるのか、壁を思い切り殴りつけた。

 龍族の力は凄まじく大広間の壁に亀裂が走るほど。

 かなりの強度を誇る神星樹の王城ヴァンドスラシルをも傷つけるのだから、相当な強力ごうりきである。

「いいのよヴァル。あたしは自分の力で自分の道を切り開くんだから。そうしなきゃならないの。ルナさんもそう言ってたわ」

 シャーロットはでボーッとする頭の中で、遠き日のことを思い出しながら、達観したように呟いた。

 心の片隅に仕舞い込まれていた懐かしき想い出を。

「そうよ……もしかしたら魔呪刻印インキューズメントがあればきっと……いえ……」

 そう言い残してシャーロットはふらりとよろけそうになりながら大広間の外へ向かう。

 ヴァルシュはそんな彼女を追い掛けることもできずに、その場にがくりと膝を付いた。

 ―――

「俺はあの時の誓いすら護れないのか! 力があれば……」

「力があればどうだと言うのだ?」

 その声に驚いて勢いよく顔を上げると、そこには龍王ガルガンドルムがヴァルシュを見下ろしていた。

 煌めくように美しい金色こんじきの瞳。

 その縦長の瞳孔がうずくまるヴァルシュをねめつけるように捉えている。

「貴様は理解していないようだな。力が必要なのは当たり前の話。あくまで前提に過ぎぬ」

 二の句が継げないヴァルシュに向かってガルガンドルムが力強い声で言い放った。

 しかしその言葉には何処か諭すような情け深い何かが混じっているように感じられる。

「力とは……魔族において力は絶対……俺は自分に力があるものと思っていました……」

「貴様は思い違いをしているようだ。力にも種類があると言うことだ。貴様が持っている力は何だ? そして持たない力は何だ? 力がなくともできることがあると知れ!」

 ふうとため息を吐いたガルガンドルムは、ひたすらヴァルシュに問い掛け続けるのみ。

 吸い込まれるかのような金色こんじきの瞳から目を逸らすことができない。

「そ、それでは……力のない俺ができること。そのようなことがあると言うのですか……?」

 考えてもみなかった。

 力がなくてもできることがある。

 そうだ。俺は知っているはずだ。

 そう自問するヴァルシュの心が、引っ掛かる何かを思い出そうとしていた。

「若いな貴様は。若い時に間違いを犯さぬ者なし。考えよ! 貴様は俺が見込んだ男。力がないのならば貴様が示すべきものは何なのだ?」

「示すべきもの……」

 ヴァルシュはひたすら自らに問い掛ける。問い掛ける。問い掛け続ける。

 ハッとしたヴァルシュの表情が茫然としたものに変わった。

 心に何かがストンと落ちたような気がした。

「そうか……そうだった。俺は大切なことを忘れていたのか……」

 ヴァルシュは気付きを得たのだ。

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